週休3日制下の社員定着とエンゲージメント:不均衡解消と働きがい向上のリアルな取り組み
週休3日制は、企業にとって魅力的な採用戦略の一つとなり得ますが、同時に既存社員の定着とエンゲージメントを維持・向上させる上で、新たな課題を生じさせる可能性も持ち合わせています。特に、制度の恩恵を感じにくい職種や部門の社員から、不公平感の声が上がるといったケースは少なくありません。今回は、週休3日制導入後の既存社員の定着とエンゲージメントについて、人事担当者の視点からリアルな状況と企業の取り組みをご紹介します。
週休3日制が社員の定着・エンゲージメントに与える影響
週休3日制の導入は、多くの社員にとって「休息時間が増える」「自己啓発や家族との時間が増える」といったポジティブな変化をもたらす可能性があります。これにより、心身のリフレッシュが進み、結果として生産性向上や企業へのエンゲージメントが高まることも期待できます。特に、ワークライフバランスを重視する社員にとっては、大きな魅力となり、離職防止に繋がる側面もあるでしょう。
しかし、その一方で、以下のような課題に直面するケースも現実には存在します。
- 部署間・職種間の不均衡: 顧客対応部門や製造現場など、物理的な対応や特定の時間帯での業務が必須の部署では、他の部署に比べて週休3日制のメリットを享受しにくいという声が上がることがあります。「なぜ自分たちだけ」「業務量は変わらないのに休日だけ減るのか」といった不満は、定着へのリスクとなり得ます。
- 業務密度の増加による疲労: 所定労働時間を維持したまま休日が増える「週4日勤務・週休3日制」の場合、1日あたりの業務密度が大幅に高まります。これにより、常に時間に追われる感覚や、以前よりも疲労を感じやすくなったという社員もいます。これが続くと、バーンアウトやモチベーション低下に繋がりかねません。
- チームワークやコミュニケーションの変化: チームメンバーの休日が不規則になったり、全員が揃う時間が減ったりすることで、情報共有や連携が難しくなることがあります。これにより、疎外感を感じたり、チームへの貢献意識が薄れたりする社員も出てくる可能性が考えられます。
これらの課題に適切に対応しなければ、せっかく導入した週休3日制が、かえって既存社員のエンゲージメントを低下させ、離職に繋がるリスクを抱えることになります。
不公平感や不均衡を解消するための取り組み
週休3日制導入による不均衡や不公平感を完全にゼロにすることは難しいかもしれません。しかし、人事として、そのギャップを可能な限り埋め、納得感を醸成するための様々な取り組みを進めることが重要です。
- 柔軟な働き方の選択肢の提供: 週休3日制だけでなく、短時間勤務、フレックスタイム制、リモートワークなど、可能な範囲で多様な働き方の選択肢を提供することで、社員一人ひとりの状況やニーズに合わせた柔軟な働き方を支援します。これにより、週休3日制を選ばない社員にも、別の形で働きやすさを提供し、公平感に配慮します。
- 制度設計の透明性と丁寧なコミュニケーション: なぜ週休3日制を導入するのか、対象となる部署や職種、対象外となる場合の理由、今後の検討方針などについて、全社員に対して透明性の高い情報提供を行います。説明会や個別相談を通じて、社員の疑問や不安に丁寧に向き合い、納得を得るための対話を重ねることが不可欠です。
- 評価制度や給与制度の見直し: 時間あたりの生産性向上を目指す週休3日制と連動し、成果評価の比重を高めるなど、評価制度の見直しを検討します。また、制度導入によって業務負荷が増加した部署については、手当の支給や役割の見直しといった形で、適切に処遇へ反映させることも、不公平感解消の一助となり得ます。
- 部署間連携の強化と相互理解の促進: 週休3日制の恩恵を受けにくい部署の状況について、他の部署の社員が理解できるよう、社内報や説明会などを通じて情報共有を行います。異なる働き方をする部署同士が互いの状況を理解し、協力し合う文化を醸成することが、組織全体の調和を保つ上で重要になります。
働きがい・エンゲージメントを向上させるための施策
週休3日制によって生まれた時間、あるいは効率化によって捻出した時間を、社員の働きがいやエンゲージメント向上に繋げるための積極的な施策も有効です。
- キャリア支援・リスキリング制度の充実: 週休3日制で生まれた休日などを活用し、社員が新しいスキルを習得したり、キャリアアップに繋がる学習に取り組んだりすることを支援する制度を強化します。企業が社員の成長をサポートする姿勢を示すことで、エンゲージメント向上に繋がります。
- 社員の自律性を高めるマネジメントへの転換: 短い時間で成果を出すためには、社員一人ひとりの自律的な働き方が不可欠です。マイクロマネジメントから脱却し、目標管理(MBOなど)やOKRといったフレームワークを活用しながら、社員が自身で計画を立て、主体的に業務を進めることを支援するマネジメントスタイルへの転換を進めます。
- 定期的な社員の声の収集と改善サイクル: 週休3日制導入後も、定期的に社員サーベイや1on1ミーティングを実施し、社員の率直な意見や懸念を収集します。そこで得られた声を制度や運用方法の改善に繋げるサイクルを回すことで、「自分たちの声が会社に届いている」という実感を持ってもらうことが、エンゲージメント維持に繋がります。
- 企業理念・パーパスとの紐付け: なぜ週休3日制を導入するのか、それが企業の目指す姿や社会への貢献にどう繋がるのかを社員に繰り返し伝えることも重要です。単なる福利厚生ではなく、新しい働き方が企業文化の一部であり、共に目指す目標のための手段であることを共有することで、エンゲージメントをより深めることができます。
運用上の困難と教訓
週休3日制下の社員定着・エンゲージメント維持は、一朝一夕に達成できるものではありません。導入当初は混乱が生じたり、想定外の課題に直面したりすることもあるでしょう。
ある企業の人事担当者からは、「制度導入はゴールではなくスタートだった」「社員の反応は想像以上に多様で、部署によって温度差が大きかった」といった声も聞かれます。特に、制度のメリットを享受しにくい部署からは、制度そのものへの不満ではなく、「自分たちの部署の業務負荷をどうにかしてほしい」「他の部署と同じように評価されているか不安だ」といった、より根源的な課題が噴出することもあるようです。
このような経験から得られる教訓は、週休3日制は組織全体の働き方や文化、評価システム、コミュニケーションスタイルなど、様々な側面に影響を与えるため、部分的な変更ではなく、包括的な視点での設計と運用が求められるということです。また、経営層から現場のリーダー、そして社員一人ひとりに至るまで、継続的な対話を通じて制度への理解と共感を醸成していく努力が不可欠です。
まとめ
週休3日制は、企業の採用力を高め、新しい働き方を推進する強力なツールですが、既存社員の定着とエンゲージメントを損なわないためには、慎重かつ継続的な対応が必要です。特に、部署間・職種間の不均衡や、業務密度の増加といった課題に対しては、柔軟な制度設計、透明性の高いコミュニケーション、評価・給与制度の見直し、そして社員の働きがいを高める施策を組み合わせることが有効です。
人事担当者としては、社員のリアルな声に常に耳を傾け、制度導入・運用が全ての社員にとってポジティブな変化となるよう、継続的な改善努力を続けていくことが求められます。週休3日制を、単なる休日増加の制度としてではなく、社員の自律性向上、生産性向上、そして働きがいとエンゲージメントの向上に繋がる、組織全体の変革の機会として捉えることが重要です。