週休3日制導入が管理部門業務に与える影響:人事・経理・総務が語るリアルな課題と工夫
週休3日制導入が管理部門にもたらす変化
週休3日制の導入は、企業の生産性向上や従業員のワークライフバランス向上に寄与するものとして注目されています。この制度変更が現場部門に与える影響については多くの議論がなされていますが、実は人事、経理、総務といった管理部門の業務にも、無視できない大きな変化と課題をもたらします。
管理部門は、制度改定の企画・実行から、変更後のオペレーション、他部署からの問い合わせ対応まで、多岐にわたる役割を担います。週休3日制という新たな働き方が加わることで、これまで構築されてきた業務プロセスやスケジュール、チーム内の連携方法の見直しが不可避となります。
本稿では、週休3日制を導入した企業の管理部門に焦点を当て、人事担当者や現場責任者の方が実際にどのような課題に直面し、それをどのように乗り越え、あるいは現在どのように向き合っているのか、そのリアルな声や工夫に基づいた情報をお届けします。
人事部門が直面する課題と工夫
週休3日制の導入において、人事部門はまさに制度設計の中心を担います。しかし、導入後も様々な運用上の課題に直面します。
勤怠管理と給与計算の複雑化
最も直接的な課題の一つは、勤怠管理と給与計算の複雑化です。週休3日制には、所定労働時間を維持しつつ1日の労働時間を長くするタイプ(例:1日10時間労働)と、所定労働時間自体を短縮するタイプ(例:週30時間労働)があります。また、特定の職種や部門のみに適用する、あるいは選択制とするケースも考えられます。
これにより、社員によって異なる労働時間制度が混在し、勤怠データの集計や給与計算、さらには有給休暇の付与日数や取得単位(時間単位・日単位など)の管理が非常に煩雑になります。
ある企業の人事担当者は、「システム改修は前提でしたが、イレギュラーなケースへの対応ルールや、社員からの『自分の給与や有休はどうなるのか』という問い合わせへの正確かつ迅速な回答体制構築が想像以上に大変でした」と語っています。
これに対する工夫としては、
- 勤怠管理システムのカスタマイズまたはリプレイス: 複数労働時間制度に対応できるシステムの導入は必須です。
- 詳細な運用ルールの策定と周知: 特に時間単位有休の取り扱いなど、細部まで詰めたルールを明確にし、社内ポータル等でいつでも確認できるように整備します。
- 問い合わせ対応FAQの整備と担当者の教育: よくある質問とその回答集を作成し、社員からの問い合わせに迷いなく対応できる担当者を育成します。
公平性の維持と社員コミュニケーション
週休3日制が全社一律ではなく、一部の部門や職種、あるいは選択制として導入される場合、社員間の公平性をどう保つかが課題となります。「なぜ自分たちの部署は対象外なのか」「給与が変わらないのに労働時間が減るのは不公平ではないか」といった声に対応する必要があります。
これに対しては、
- 制度導入の目的と背景の丁寧な説明: 週休3日制導入が単なる休暇増ではなく、生産性向上や新しい働き方の実験といった経営戦略と結びついていることを、全社員に丁寧に説明します。
- 他部門への働き方改革支援: 週休3日制が難しい部門に対しても、別の形で柔軟な働き方(例:フルフレックス、リモートワーク推奨など)を導入・支援することで、全体のワークライフバランス向上を図ります。
- オープンな対話の場の設定: 説明会やQ&Aセッションを設け、社員の疑問や懸念に真摯に向き合う姿勢を示します。
「制度設計以上に、社員一人ひとりの納得感を得るためのコミュニケーションに最も時間と労力を費やしました。経営層や各部門長を巻き込み、繰り返し対話の場を持つことが重要だと痛感しました」とある人事責任者は振り返ります。
経理部門・総務部門の課題と工夫
経理部門や総務部門も、週休3日制の導入・運用によって業務プロセスや他部署との連携において課題に直面します。
締め日・支払日対応と他部署連携
経理部門は月次の締め業務や支払業務など、期日が厳格に決まっている業務が多くあります。週休3日制により、担当者が特定の曜日に不在となる場合、これらの業務プロセスを滞りなく遂行するための体制構築が求められます。
「経費精算の申請・承認期限が守られない」「請求書の確認が遅れる」といった問題が発生するリスクがあります。特に月末月初など、特定の時期に業務が集中する部署では、担当者の不在が致命的になる可能性もあります。
これに対する工夫としては、
- 業務プロセスの徹底的な見直しと分散化: 締め日前の数日間に業務が集中しないよう、日々の分散処理や、前倒しでの対応をルール化します。
- 承認フローの電子化と代行承認ルールの明確化: 物理的な書類でのやり取りを減らし、システム上でいつでも承認できる環境を整備します。担当者不在時は、誰が代行承認するのかを明確にします。
- 他部署への協力依頼と期日厳守の徹底: 経費精算や請求書提出など、他部署からの連携が必要な業務については、期日厳守の重要性を改めて周知し、協力を依頼します。
オフィス利用や備品管理
総務部門では、オフィス環境の維持管理や備品管理といった業務に影響が出ることがあります。週休3日制により、オフィスに出社する社員が分散したり、特定の曜日に集中したりすることで、座席管理、清掃、備品の発注・管理方法などを最適化する必要があります。
「以前は全員が同じ曜日に出社していたため予測がつきやすかったオフィス利用率が、週休3日制とリモートワークの組み合わせで非常に読みにくくなりました。座席が足りなくなる日もあれば、ガラガラの日もあるといった状況です」とある総務担当者は言います。
これに対する工夫としては、
- ABW(Activity Based Working)の導入やフリーアドレス化の推進: 特定の席を固定せず、業務内容に応じて自由に働く場所を選べるようにすることで、オフィススペースを効率的に活用します。
- オフィス利用状況のデータ収集と分析: 入退室データや座席予約システムの情報を分析し、実際の利用状況に合わせて清掃計画や備品発注量を調整します。
- 必要最低限の共有備品の整備と個人持ちの推進: 全員が必要とする備品はオフィスに置きつつ、個人が頻繁に使うものは個人で管理・携帯することを推奨します。
管理部門の働き方改革への示唆
週休3日制の導入は、管理部門にとって単なる「制度変更への対応」に留まりません。これは、管理部門自身の働き方を見直し、業務効率化や生産性向上を達成するための大きな機会でもあります。
定型業務の自動化(RPA導入など)、ペーパーレス化の徹底、チャットツールやプロジェクト管理ツールの活用による部署内外のコミュニケーション効率化は、週休3日制の運用を円滑にするだけでなく、管理部門で働く人々自身のワークライフバランス向上にも繋がります。
ある管理部門の責任者は、「週休3日制導入の波に乗って、これまで『慣習だから』と続けてきた無駄な業務プロセスを洗い出し、思い切って廃止・変更することができました。結果として、自分たち自身の業務効率も上がり、週3日休みでなくても、より生産的で働きがいのある環境になったと感じています」と語っています。
まとめ
週休3日制の導入は、従業員全体の働き方を大きく変革する試みであり、その影響は現場部門だけでなく、人事、経理、総務といった管理部門にも深く及びます。勤怠管理、給与計算、締め日対応、オフィス管理など、管理部門特有の課題が発生しますが、これらは業務プロセスの見直し、テクノロジーの活用、そして何よりも部門内外の丁寧なコミュニケーションによって乗り越えることが可能です。
管理部門がこれらの課題に積極的に向き合い、工夫を凝らすことは、週休3日制の成功に不可欠であり、同時に管理部門自身の働き方改革を推進し、組織全体の生産性向上に貢献する機会となります。週休3日制導入を検討されている企業の人事担当者の皆様にとって、本稿が管理部門の視点からの準備や対策の参考になれば幸いです。